虫食い豆ってどんな味?

コーヒー豆を購入した後、豆をよく見たことがあっただろうか。

私は毎シーズン更新されるプロ野球の選手名鑑には目を通さないし、ゲームを購入したらケースを開いて左側に収まっていた操作説明書にも目を通さない小学生だった。つまるところ、別に手順を踏まなくても楽しめるならやらなくてもいいや、と思う性質だ。社会人になってもその性質は変わっておらず、当然のようにコーヒー豆を購入したら豆を確認することなく消費していた。

たしか、いつもこうだった。
豆を袋からザバッとコーヒーを保管する容器に移し、必要分をコーヒーミルに入れ、ハンドルを回す。この一連の作業に「豆を観察する」なんて工程入れたことがなかったし、淹れたコーヒーがまずいな、なんて思ったことはほとんどなかった。あったとして自分の淹れ方が悪かったな、と思う程度だ。だから、特に気にすることなく消費を繰り返していた。

虫食い豆と出会ったのはコーヒーショップに勤めるようになってからだ。まるでこのあと一波乱二波乱あってそれなりの仲になる相手との出会いの一文みたいな書き出しだけど、虫食い豆は何の比喩でもないそのままの意味だ。
コーヒーショップではハンドピックといって、味を損ねる原因の豆(欠点豆)を取り除く作業を行う。ときにはガラス片と思われるものや小石が混入していることもある。その作業中、私と虫食い豆は初めて顔を合わせることになった。

そもそものはなし、現在流行している「スペシャルティコーヒー」には欠点豆があまり含まれていない。小難しい話は横に放り投げて簡単に訳すと「スペシャルティ=風味に特徴のある美味しいコーヒー」だ。欠点豆がそれなりの数混入していると風味を損なうからスペシャルティなんて名は付けられることがない。だから、日本のスペシャルティの潮流とともに欠点豆と接点がない、なんて人もそれなりの数いると思う。私の場合はコーヒーショップに勤めハンドピックを知ったことで、その大多数の人からたまたまはみ出した一人だったということだ。そして、はみ出したうえで虫食い豆の味がどんなものだろうと気になってしまっただけだ。表面に真ん丸な穴が空き、不自然に一部緑色に変色した豆がどんな味なのか。

虫食い豆を集め、丁寧にミルでグラインドしてコーヒーを抽出する。
それはそれは丁寧に抽出する。
虫食い豆の持つ風味を100%引き出せるよう丁寧に。

虫食い豆のみで抽出したとわかっているからこそ飲む前から若干の気持ち悪さを感じながらも一口。

えぐみがすごい。

コーヒーがのどを通った後、舌に残る刺々しいざらつきと不快感をとても感じる。不愉快の余韻が長い。

そんな感想だ。

一言で表すなら「クッソまずい」だ。

日ごろから口にするブラジルの中深煎りコーヒーはカップを傾けた時、何というかこうばしい香りがする。よく「ナッティな香り」と呼ばれるものだろう。口に含めばほろ苦くマイルド、とても飲みやすいコーヒーという印象だ。昔「銀ブラ」という名前が流行っただけはあると思ったものだ。

だけど、虫に食われたブラジルの中深煎りコーヒーは全くの別もののように思えた。
肉を炭火で焼いたときにたまにやってしまう端のほうの焦げ。あのもはや炭と化した黒焦げ部分だけを食べた時に残る嫌な苦みの余韻を想起させられた。

もちろんこれは極端な例だ。
実際にコーヒーを飲むとき、全てが虫食い豆なんてことはないし、半分が欠点豆なんてこともそうそうないだろうと思う。200g数百円で買えるお手頃価格なコーヒー豆でも滅多にない。
スペシャルティコーヒー豆を購入したなら言わずもがな。

それほど心配するものではないだろう。

結果的に虫食い豆はまずいということを実感できた。だけど、多少混じっているくらいなら個人的には問題ないとも思った。白色に一滴の黒色を混ぜるほど劇的な変化があるものではなく、ほんの少し美味しさが色褪せるくらいだろう。私自身それほど気にならないだろうし、多くの人は知らないだけで普段から「そういうもの」として飲んでいるのかもしれない。

ちなみに、欠点豆の中には少し混じるだけでコーヒーを劇的にまずくする魔法のような欠点豆が存在するらしい。それこそ白色に黒色を垂れ流すほど大きな変化をもたらす欠点豆が・・・。

おそらく私はこれからの人生も、プロ野球の選手名鑑には目を通さないしゲームも説明書を確認せず起動することだろう。つまりコーヒーに関しても今まで通りだ。

スペシャルティコーヒーを飲むことが多いというのも理由の一つだし、豆を購入するロースターがハンドピックしているだろうという信頼もある。だから、コーヒー豆を購入したら体に染みついた工程をこなしていく。その工程の中に「豆をチェックする」という作業は今も含まれていない。

コーヒー豆を購入した後、豆をよく見たことがあっただろうか。

私は毎シーズン更新されるプロ野球の選手名鑑には目を通さないし、ゲームを購入したらケースを開いて左側に収まっていた操作説明書にも目を通さない小学生だった。つまるところ、別に手順を踏まなくても楽しめるならやらなくてもいいや、と思う性質だ。社会人になってもその性質は変わっておらず、当然のようにコーヒー豆を購入したら豆を確認することなく消費していた。

たしか、いつもこうだった。
豆を袋からザバッとコーヒーを保管する容器に移し、必要分をコーヒーミルに入れ、ハンドルを回す。この一連の作業に「豆を観察する」なんて工程入れたことがなかったし、淹れたコーヒーがまずいな、なんて思ったことはほとんどなかった。あったとして自分の淹れ方が悪かったな、と思う程度だ。だから、特に気にすることなく消費を繰り返していた。

虫食い豆と出会ったのはコーヒーショップに勤めるようになってからだ。まるでこのあと一波乱二波乱あってそれなりの仲になる相手との出会いの一文みたいな書き出しだけど、虫食い豆は何の比喩でもないそのままの意味だ。
コーヒーショップではハンドピックといって、味を損ねる原因の豆(欠点豆)を取り除く作業を行う。ときにはガラス片と思われるものや小石が混入していることもある。その作業中、私と虫食い豆は初めて顔を合わせることになった。

そもそものはなし、現在流行している「スペシャルティコーヒー」には欠点豆があまり含まれていない。小難しい話は横に放り投げて簡単に訳すと「スペシャルティ=風味に特徴のある美味しいコーヒー」だ。欠点豆がそれなりの数混入していると風味を損なうからスペシャルティなんて名は付けられることがない。だから、日本のスペシャルティの潮流とともに欠点豆と接点がない、なんて人もそれなりの数いると思う。私の場合はコーヒーショップに勤めハンドピックを知ったことで、その大多数の人からたまたまはみ出した一人だったということだ。そして、はみ出したうえで虫食い豆の味がどんなものだろうと気になってしまっただけだ。表面に真ん丸な穴が空き、不自然に一部緑色に変色した豆がどんな味なのか。

虫食い豆を集め、丁寧にミルでグラインドしてコーヒーを抽出する。
それはそれは丁寧に抽出する。
虫食い豆の持つ風味を100%引き出せるよう丁寧に。

虫食い豆のみで抽出したとわかっているからこそ飲む前から若干の気持ち悪さを感じながらも一口。

えぐみがすごい。

コーヒーがのどを通った後、舌に残る刺々しいざらつきと不快感をとても感じる。不愉快の余韻が長い。

そんな感想だ。

一言で表すなら「クッソまずい」だ。

日ごろから口にするブラジルの中深煎りコーヒーはカップを傾けた時、何というかこうばしい香りがする。よく「ナッティな香り」と呼ばれるものだろう。口に含めばほろ苦くマイルド、とても飲みやすいコーヒーという印象だ。昔「銀ブラ」という名前が流行っただけはあると思ったものだ。

だけど、虫に食われたブラジルの中深煎りコーヒーは全くの別もののように思えた。
肉を炭火で焼いたときにたまにやってしまう端のほうの焦げ。あのもはや炭と化した黒焦げ部分だけを食べた時に残る嫌な苦みの余韻を想起させられた。

もちろんこれは極端な例だ。
実際にコーヒーを飲むとき、全てが虫食い豆なんてことはないし、半分が欠点豆なんてこともそうそうないだろうと思う。200g数百円で買えるお手頃価格なコーヒー豆でも滅多にない。
スペシャルティコーヒー豆を購入したなら言わずもがな。

それほど心配するものではないだろう。

結果的に虫食い豆はまずいということを実感できた。だけど、多少混じっているくらいなら個人的には問題ないとも思った。白色に一滴の黒色を混ぜるほど劇的な変化があるものではなく、ほんの少し美味しさが色褪せるくらいだろう。私自身それほど気にならないだろうし、多くの人は知らないだけで普段から「そういうもの」として飲んでいるのかもしれない。

ちなみに、欠点豆の中には少し混じるだけでコーヒーを劇的にまずくする魔法のような欠点豆が存在するらしい。それこそ白色に黒色を垂れ流すほど大きな変化をもたらす欠点豆が・・・。

おそらく私はこれからの人生も、プロ野球の選手名鑑には目を通さないしゲームも説明書を確認せず起動することだろう。つまりコーヒーに関しても今まで通りだ。

スペシャルティコーヒーを飲むことが多いというのも理由の一つだし、豆を購入するロースターがハンドピックしているだろうという信頼もある。だから、コーヒー豆を購入したら体に染みついた工程をこなしていく。その工程の中に「豆をチェックする」という作業は今も含まれていない

スクロールできます
スクロールできます
Contents